図1

図1 左の図は小惑星リュウグウの 1 日の最高溫度の分布。右のグラフは、各地點で観測さ れた一日の溫度変化(□マーク)と理論計算に基づく予測値(実線と破線)の比較。理論計算 では一様な熱慣性を仮定し熱慣性の値を変化させて計算している。(c) Okada et al., Nature 2020

概要

小惑星探査機「はやぶさ2」到著前の予測に反し、小惑星リュウグウは隙間だらけの物質でできた天體であることがわかりました。

リュウグウのようなC型(炭素質)に分類される小惑星は46億年前の太陽系形成時の始原的物質を保存している「化石」と考えられています。しかし、どんな物質がどのように集まって形成した天體なのかは、ほとんどわかっていません。

研究チームは「はやぶさ2」に搭載された中間赤外線カメラ(TIR)を用いて、史上初のC型小惑星の全球撮像を連続1自転分実施し、取得されたデータを解析しました。その結果、表層の巖塊も周辺土壌もほぼ同じ溫度であることがわかりました。また、溫度の日変化は小さいこともわかりました。このことから、リュウグウ表面は溫まりやすく冷めやすい(熱慣性が極めて低い)物質で覆われていることがわかります。すなわち、リュウグウ地表の巖塊も周辺土壌も多孔質な物質だということを示唆しています。

地球のような巖石天體は、太陽系初期にふわふわのダストが集まって成長し形成したと考えられています。しかし、マイクロメートルサイズのふわふわとした(密度の低い)ダスト粒子から密度の高い巖石天體へとどのように成長するのかは、解明されていません。本研究成果から、リュウグウはふわふわのダストから稠密な天體が形成する過程の途中にある天體かもしれないことがわかりました。

この研究成果は、イギリスの科學雑誌 Nature 電子版に 2020年3月16日 (日本時間3月17日)に掲載されました。

本文

小惑星探査機「はやぶさ2」は始原天體と考えられるC型小惑星を探査し、(1)太陽系初期にどのような物質があり、惑星が形成するまでにどのように変化したのか、(2)ダストから微惑星、微惑星から惑星へと、天體はどのように進化したのか、これら二つを明らかにすることを研究テーマとしています。本研究ではテーマ(2)にチャレンジしました。その方法として研究チームが注目したのが中間赤外線カメラTIRによる撮像、つまりサーモグラフィです。すべての主要な地形や地質構造を検知でき、季節変動も調べることができます。研究チームは史上初のC型小惑星の全球撮像を連続1自転分実施しました。理論計算により、リュウグウの熱慣性(溫まりやすさ、冷めやすさの指標で熱慣性の値が小さいほど溫まりやすく冷めやすい)を調べたところ、予想に反し非常に小さな値(隕石の一種である炭素質コンドライトやその他地球の石に比べて非常に小さな値)になりました。より詳しくモデル計算と比較すると、リュウグウは極めてスカスカ(高空隙)で凹凸が激しいことがわかりました。また、巖塊と周辺土壌が同じ溫度であることから、いずれもスカスカの物質であることがわかりました。巖塊と周辺土壌で観測された溫度日変化は小さく、さらに、両者でほぼ同じ溫度の日変化を示します。これは巖塊と周辺土壌が熱的に同等の物質であることを示す結果で、予想外の結果でした。

TIRの観測ではコールドスポットと呼ばれる、周囲よりも20度以上も溫度が低い巖塊を複數発見しました。これらの熱慣性は、地上で発見された炭素質コンドライトと呼ばれる隕石と同程度で、密度も同程度だと推測されます。

図2

図2 リュウグウ形成のシナリオ (c) Okada et al., Nature2020

以上の観測結果から、リュウグウの形成シナリオは次のように推測されます。まず、(1)ふわふわのダストが集まって成長し、(2)微惑星が形成します。この微惑星は密度が低く、スカスカな狀態です。(3)さらに微惑星が成長し、高空隙であまり熱進化もしていなかったと思われる母天體が形成します。母天體の中心部はやや圧密されたかもしれません。そして、(4)天體衝突により母天體が破壊されます。母天體の外側の物質は飛散し、中央部の物質も露出します。(5)飛び散った巖塊は再度集積し、ラブルパイル天體が形成します。大部分は高空隙な巖塊ですが、圧密を受けたものも含まれ、表面に露出します。この天體の自転は比較的速く、赤道付近が膨らんだ形狀となります。(6)その後、何らかの理由で自転が遅くなり、軌道も変化し、現在のようなリュウグウとなりました。TIRで発見された低溫の巖塊は、母天體の中心部で圧密を受けた物質か、もしくは、母天體に衝突してきた天體を起源とする可能性があります。

隙間だらけの小惑星リュウグウは、原始太陽系でふわふわのダストから密度の高い天體が形成するその途中過程を具現しているのかもしれません。

論文情報

"Highly porous nature of a primitive asteroid revealed by thermal imaging", Nature, 16 March, 2020

Tatsuaki Okada, Tetsuya Fukuhara, Satoshi Tanaka, Makoto Taguchi, Takehiko Arai, Hiroki Senshu, Naoya Sakatani, Yuri Shimaki, Hirohide Demura, Yoshiko Ogawa, Kentaro Suko, Tomohiko Sekiguchi, Toru Kouyama, Jun Takita, Tsuneo Matsunaga, Takeshi Imamura, Takehiko Wada, Sunao Hasegawa, J?rn Helbert, Thomas G. Müller, Axel Hagermann, Jens Biele, Matthias Grott, Maximilian Hamm, Marco Delbo, Naru Hirata, Naoyuki Hirata, Yukio Yamamoto, Seiji Sugita, Noriyuki Namiki, Kohei Kitazato, Masahiko Arakawa, Shogo Tachibana, Hitoshi Ikeda, Masateru Ishiguro, Koji Wada, Chikatoshi Honda, Rie Honda, Yoshiaki Ishihara, Koji Matsumoto, Moe Matsuoka, Tatsuhiro Michikami, Akira Miura, Tomokatsu Morota, Hirotomo Noda, Rina Noguchi, Kazunori Ogawa, Kei Shirai, Eri Tatsumi, Hikaru Yabuta, Yasuhiro Yokota, Manabu Yamada, Masanao Abe, Masahiko Hayakawa, Takahiro Iwata, Masanobu Ozaki, Hajime Yano, Satoshi Hosoda, Osamu Mori, Hirotaka Sawada, Takanobu Shimada, Hiroshi Takeuchi, Ryudo Tsukizaki, Atsushi Fujii, Chikako Hirose, Shota Kikuchi, Yuya Mimasu, Naoko Ogawa, Go Ono, Tadateru Takahashi, Yuto Takei, Tomohiro Yamaguchi, Kent Yoshikawa, Fuyuto Terui, Takanao Saiki, Satoru Nakazawa, Makoto Yoshikawa, Seiichiro Watanabe, Yuichi Tsuda

DOI:10.1038/s41586-020-2102-6

共同発表機関

國立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
學校法人 立教學院 立教大學
學校法人 足利大學
學校法人 千葉工業大學
公立大學法人 會津大學
國立大學法人 北海道教育大學
國立大學法人 名古屋大學
German Aerospace Center(DLR)
Max-Planck Institute for Extraterrestrial Physics
University of Stirling